労務
税務
2024/07/08
女性役員のための出産時の制度
こんにちは! 医療チーム・税務コンサルタントの西條です。
グロースリンクに中途で入社して、早いもので半年が経ちました。
せっかくコラム執筆の機会を頂いたので、今回は気合を入れて書いていきます。テーマは、女性役員の出産にあたっての制度上のあれそれです。
実は、以前女性役員の出産に際していろいろお手伝いをさせて頂いた事があるのですが、ネット上に落ちている情報が少ないな…と思った事がありました。
それならば私が落としていこうという精神で、以下つらつらと書いて参ります!
役員と労働者
まず役員と労働者には、制度面でいろいろな違いがあります。
例えば労働者は、労働基準法・育児介護休業法で定められる産前産後休業・育児休業(いわゆる産休・育休)を取得する事ができますが、この法令の対象は「労働者」なので、役員には産休・育休の概念がありません。
制度に規定されたものが無いというだけで、お休みを取る事自体は可能です。
また、ご本人が休みを希望しない場合でも、出産の翌日から8週間は就業することができません。強制的に休業です。ただし、産後6週間を経過後に本人が請求し、医師が認めた場合は就業することができます。
役員の方はこの制限が無いので、早期に勤務する必要に駆られたとしても違反になる事はございません。しかしながら、産後体の調子がなかなか戻らない事もありますので、ご自身の体調に合わせてご無理のないようにお気を付けください。
また、産休中に給付される出産手当金は健康保険の被保険者本人であれば受け取る事ができますが、育休中に給付される手当は原則受け取る事ができません。
以下、詳しく説明させて頂きます。
出産手当金
出産手当金は健康保険の被保険者が出産のため会社を休んだために事業主から報酬が受けられない場合に支給される手当金です。
期間は出産予定日の6週間前(双子以上の場合は14週間前)から産後8週までとなります。
支給を受けるには、出産される方が法人の加入している健康保険の被保険者本人である必要があります。例えば配偶者の扶養に入っていたり、国民健康保険に加入している場合はこの手当を受け取る事はできません。
金額は、支給開始日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額を平均した額÷30日×(2/3)です。
年の途中で役員報酬に大きな変動があれば数字が前後する可能性はございますが、大体毎月の役員報酬の2/3とお考え下さい。
基本的に賞与は臨時的な報酬として計算に入れませんので、月額報酬が大きい方がもらえる手当の額も大きくなります。
ご注意頂く事としては、出産手当金は、収入が無い期間の補填の意味合いがあるので、役員報酬の支給がある場合は手当が貰えなかったり減額されてしまいます。
そこで、手当を受け取るに役員報酬の支給を止めて頂くと、会社の懐も痛まず役員の方は手当の支給を受けられるという事になります。
役員報酬の支給停止
役員報酬は「定期同額給与」と言われるように、毎月同額を支給しなければならず、 原則として、期首から3か月以内でないと変更できません。
しかしながら、病気やケガなどでやむなく働けなくなった時は、臨時改定が認められています。出産をされて一時的に仕事ができなくなった場合も同様です。
その場合、臨時株主総会で決議をして、議事録を作成して残しておく必要がございます。
役員報酬は日割りという概念がなく、月単位の支給になります。
何月から休みを開始するか、何か月お休みにするか、出産予定日によって期間をご検討頂く必要があるかもしれません。
尚、働いていない期間、必ず役員報酬を停止しなければならないかというとそうではなく、役員報酬は期中に変更してはいけないという原則に従い、そのまま支給を続ける事もできます。
社会保険料の免除
また、少し嬉しい制度として社会保険料の免除がございます。
通常、業務をお休みの間も社会保険料の納付が発生し続けてしまうのですが、出産にあたっては法人・個人とも社会保険料が免除されます。
出産育児一時金
他に妊娠・出産に際して受け取れる手当として出産育児一時金があります。
こちらは出産手当金とは違い、役員・労働者関わらず、また配偶者の扶養に入っていたり、国民健康保険の加入者である場合も受け取る事ができます。
金額は出産の際に1児につき48万8千円(産科医療補償制度に加入の医療機関等で出産した場合は1児につき50万円)。
受け取った覚えが無い方は、受給者を通さず産院に直接お金が支払われる直接支払制度を利用されていらっしゃるかもしれません。気になった方はぜひ確認してみて下さい。
育児休業給付金
育児休業給付金は、1歳未満の子どもを育てるにあたって給付されるものです。
労働者が雇用保険に加入している場合、子どもが1歳になるまで給付を受ける事ができます。
大変残念なことに、役員は原則雇用保険に加入する事ができず、育児休業給付金を受け取る事ができません。
ただ、配偶者の方が労働者の立場で雇用保険に加入されていた場合は、ご自身のかわりに配偶者の方が育休を取得したり育児休業給付金を受け取る事ができます。
医療費控除
妊婦検診で負担した費用や出産費用は医療費控除の対象です。
計算にあたっては、医療保険金や出産育児一時金等で補填された分を差し引かなければいけませんので注意が必要です。
医療費控除は、医療費が年間10万を超えないと受けられない…とお考えになる方もいらっしゃると思います。
概ねその通りではあるのですが、所得金額が200万未満の方は「所得の5%を超えた分」が対象となりますので、
たとえ総額10万いかなかったとしても医療費控除の対象となる事があります。
出産手当金や育児休業給付金は所得として計算しなくても良いので、出産時は所得が200万いかない事もあります。
是非一度細かく計算してみる事をおすすめいたします。
例外的な「使用人兼務役員」
その他、使用人兼務役員といって、役員でもあるけれど従業員としても働いているという方は、法令でいう「労働者」に含まれます。
つまり、産前産後休業・育児休業を取得する権利があり、また、出産手当金だけではなく、育児休業給付金を受け取る事ができます。
ただ、受け取るお給料には使用人として受け取る分と役員として受け取る分があり、特に育児休業給付金を受け取る際の計算の基礎となるのは使用人部分に対してのみとなります。
また、使用人兼務役員であっても、社会保険に加入していなければ出産手当金は受給できませんし、雇用保険に入っていなければ育児休業給付金は給付されませんのでご注意下さい。
以上、女性役員が出産した場合に利用可能な制度をまとめてみました。
出産を控えていらっしゃる皆さまが、少しでも安心して新しい家族を迎える事ができるよう、お役に立てましたら幸いです。
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